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COTOPICS コトピックス

vol.142019年9月号

きょうの架け橋

対談:株式会社大西常商店 四代若女将 大西里枝×当社代表取締役 川口聡太(1/3)

このコーナーでは、京都の伝統文化を担う方々へのインタビュー特集をお届けいたします。文化と人々を繋ぎ、後世へ残していくために何を考え、感じ、活動されているのかをお伝えしていきます。

今回は昭和のはじめ、大西常次郎が扇子の商いをはじめた「大西常商店」の四代目を継ぐ大西理枝さんと、当社代表川口聡太の対談をお送りいたします。

大西 理枝
株式会社大西常商店 四代 若女将
1990年生まれ。立命館大学卒業後、大手通信会社に勤める。結婚、出産を機に京都へ転勤後、2016年8月に大西常商店に入社。4代目を担う立場として新商品開発や職人の育成に積極的に関わるなど奮闘する。
http://www.ohnishitune.com/

史上最も遅い梅雨入りを、今か今かと待ちわびていた6月の中旬。京都の中心、四条通から少し南に下がり、服飾や和装の小さな商店が立ち並ぶ閑静な松原通に「大西常商店」の町家。通り土間から創業時から残る中庭へと心地よい風が通る一室へ、屈託のない笑顔で若女将が案内してくれた。

興味のなかった家業
息子が生まれて訪れた変化

川口「素敵なお庭、素敵なお家ですね」
大西氏(以下、大西)「今は店舗兼祖母の自宅として使っています。出産で里帰りしてきたのもこの家。町家は維持修復がめちゃくちゃ大変だし、ビルや駐車場に建て替えられてしまうことも多くてずいぶん減ってしまいました。そんな時流の中でこの町家の価値を理解し、なんとしても保存しようと守ってきた両親はすごいなって思います。私が魅力に気づけたのは最近ですし」
川口「そうなんですか?以前はこちらにお住まいだったのですよね?」
大西「小さいころは町家住まいが嫌だったんですよ、マンションに憧れていました(笑)小学生の頃なんて自分の家が町家だって知られたくなくて、扇子屋だっていうことすら隠していましたもん。苗字同じだけど、あの大西ってお店はうちじゃないよ~って。バレバレですよね(笑)」
川口「そこまでして(笑)でも小さいころは新しいおうちに憧れる気持ちも分かります。ではご自分が家業を継ぐということも…」
大西「全然!まったく考えてなかったです」
川口「そうなんですね。お店に入られたのはわりと最近ですよね?」
大西「はい、2016年の夏です」
川口「転機になったのは?」
大西「出産で里帰りしたことですね。日中お店の奥にいると、仕事の様子が分かるんです。見聞きしているうちに、『もっとできることがあるんじゃないか』って思えてきて。扇子って季節ものでしょう?夏に思い切り稼いで、冬は閑散期なものですから私たちも職人さんも、収入面でのリスクを抱えています。じゃあ冬場に売れる商品を持ったらいいんじゃないかな?とか。あと、当時IT通信の仕事をしていたこともあって、注文のほとんどをFAXでいただいているのもちょっとびっくりしましたね。メールは?ネットは?って(笑)」
川口「社会人としての経験があったことも大きかったかもしれませんね」
大西「ああ、そうかもしれません。出産当時は前職で営業企画として勤めて4年くらい経っていましたし、ビジネスの素養は多少培われていたと思います。それから、自分が親になって、『私は扇子で育ててもらってきたんだな』って、なんとなく実感したんですよね。食べさせてもらって、学校にも行かせてもらって。そしたら、私も息子を扇子で養いたい!って思ったんです」
川口「なるほど。ご自身の環境の変化で、いろんなものの見え方が変わったんですね」
大西「そうですね。でもやってみたら、思っていた以上にモノを動かすお商売って本っ当に大変!形のないものを売り、契約いただいたら毎月決まった売上が入ってきていた通信会社のころが時々懐かしくなります(笑)」

人と繋がるストーリーを大切に始めた
クラウドファンディング

川口「お若い大西さんからすると、家業にITを導入していくのはごく当たり前の感覚ですよね」
大西「ええ、入社してすぐに『町家を修復して活用したい』というクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げたのですが、やることに抵抗はなかったですね」
川口「なぜまず町家の修復から始めようと?」
大西「足元固めと言いますか、まずは土台を残すことを考えたんです。町家という形だけではなく、扇子を使うという日常も含めて。ですから『扇子を使った文化体験ができる場所を提供するために、町家を修復する資金を集めたい』と投げかけました」
川口「なるほど。町家と文化、形あるものとないもの双方の遺産を守ることで付加価値が上がりますね」
大西「うちの場合、いくらそのものに歴史や価値があっても『町家を直したい』だけだと『自宅を直したい』と言っているのと変わりません。だから支援してくださる方に刺さるストーリーは立ち上げるにあたりすごく考えましたし、ブレずにやらなければならない部分だと思っています」
川口「文化体験は具体的には何を?」
大西「日本舞踊や能のお稽古に部屋をお貸ししているほか、また市内のホテルと協力して、海外のお客様に投扇興(※)を体験していただくプランを提供しています。扇子を使う伝統芸能の継承に力を入れることが、私たちの未来にも繋がりますから。それから撮影やきものの展示会のために企業様にお貸しすることも。この町家のレンタル業が、季節によらない安定的な収益の一つの柱にもなりました」
川口「ですが実際の修復には、目標額以上の費用がかかったのでは?」
大西「かかりますよ~、まだ直せていないところもあるし、家の維持のためにもっと働かなきゃ!って状態です(笑)でも資金集めというよりは、私たちがこれから何をやるのか、やりたいのかを知ってもらうことが目的だったので」
川口「なるほど。確かに新しい取り組みを広めるきっかけに向いているツールですよね。やってみていかがでしたか?」
大西「広報ツールとして良いんですけど、正直大変です!数百人の方に支援していただいたんですけど、リターンの発送だけでもヘトヘトでした(笑)だけど出資者の方がお店にも来てくださるなど、その後もずっと応援してくださる人との繋がりを得られたことが一番大きいのかなと思います。やってみて思うのは、皆さんリターンが欲しくて出資するわけではないんだなということ。募集側のストーリーを応援できるかが一番重視される。私も大切に考えた部分ですし、多くの方に共感していただけたのはありがたいなぁと思います」

※投扇興…的に向かって扇子を投げ、それによってつくられる形を採点し得点を競う、江戸時代に考案された遊び

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