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COTOPICS コトピックス

vol.142019年9月号

きょうの架け橋

対談:株式会社大西常商店 四代若女将 大西里枝×当社代表取締役 川口聡太(2/3)

職人育成、季節商売からの脱却
一石二鳥の新商品「かざ」

ルームフレグランス「かざ」

ルームフレグランス「かざ」

川口「次にクラウドファンディングを使われたのは、新商品のルームフレグランス『かざ』の開発のため。こちらにも『職人の育成』というストーリーがありますね」
大西「はい。そもそも新商品が必要だったのは、職人さんの生活を守るためでもあるんです。扇子作りは80以上の各工程で職人さんが作業します。私たち扇子屋は彼らがいなければ成り立たないし、職人さんを大切にするのは当たり前のこと。けれど職人さんの高齢化が著しく、80代、90代で頑張っている方も多くて」
川口「ええっ、そんなにご高齢とは…」
大西「だから体を悪くされて納期が遅れる…なんてことも。あと5年で扇子は作れなくなるのではないかというところまできています。こんな状況になるまで若手が育たないのは、扇子が季節商品で収入が不安定というところにも原因があるんです。さらに扇子の需要が減ったことで、一人前になるまで衣食住の面倒を見る昔ながらの内弟子制度も立ち行かない。ただでさえ仕事が少ない若い職人が、たった一人で腕を磨きながら暮らしていくのは難しいんです。だから、扇子屋がいかに仕事を安定的に発注し、職人の生活を支え、若手を育てる余裕を作れるかが今後の鍵になります」
川口「なるほど」
大西「新商品を模索していた当時、特に後継者不足で危機に陥っていたのが、竹を薄く削り、扇骨を作る工程です。だから扇骨づくりの技術を使った需要を生み出さなくちゃと考えました。フレグランスに目を付けたのは、比較的冬に売れやすい商材だと言われているからです」
川口「気がかりだった冬の収益の安定性もカバーできますね」
大西「とはいえ、私はデザインもできないし、ひとりで実現させるのは難しいので、京都商工会議所の『あたらしきもの京都』というプロジェクトにアイデアを持ち込んで相談しました。そこで紹介いただいたデザイナーさんと一緒に商品化したのが『かざ』です」
川口「大西さんの実行力には目を見張るものがあります。反響はいかがでしたか?」
大西「おかげ様で祇園のMaster Recipe(※)さんをはじめ、ほうぼうに興味を持っていただき、お客様からも好評です。いくつかのデザインコンペでも賞をいただきました」
川口「ああよかった!しかし、実際どれくらい販売できれば扇骨職人ひとりを守ることができるのでしょうか」
大西「う~ん、たぶん月100本はいかないと養えないと思います。まだまだです。小売店さんが棚作りをしやすいように『かざ』の関連商品をさらに展開し、販路を広げていけたらと思っています」

※Master Recipe…世界各地の素材、人、技、歴史や産地に裏付けられストーリーに「美しさ」「新しさ」という二つのレシピを加えてお届けしている

「現代っ子」のやり方で
伝統産業を復活させたい!

川口「お話を伺っていると、他にも途絶えてしまいそうな工程があるように思うのですが」
大西「たくさんあります。扇子の紙と紙の間にあって強度を出す、ごくごく薄い和紙はもう作れなくなるんじゃないかとか…。他の工程もどんどん若手を育てられるように、また考えていきたいとは思っています。新商品のマーケティングテストのようなことも、インターネットを使ってやっていきたいですね」
川口「やらなければならないことも、アイデアも山ほどありますね」
大西「そうですね、クラウドファンディングももう二度とやるまいと思うくらい大変だったんですけど、懲りずに新しいプロジェクトを立ち上げています(笑)」
川口「おお、どんなプロジェクトですか?」
大西「本業とは関係なく私個人でやっていることなのですが、女性職人限定のアトリエ付きシェアハウスのオープン準備をしています。様々な分野の伝統工芸職人を目指す若者向けのコンセプトハウスで、3年間住居と工房を安く貸し、経営セミナーを受けてもらうなどして独り立ちをサポートします」
川口「面白いですね!目の付け所がステキだと思います」
大西「ありがとうございます!でも伝統工芸の職人さんたちの状況を目の当たりにしたらここを何とかしなきゃ、と思うのに誰しも時間はかからないと思います。京都の工芸学校で技術を習得しても、卒業から10年後に職人を続けている人ってどれくらいいると思いますか?」
川口「なんか少なそうですね」
大西「産業技術研究所の陶芸コースは半数以上が続けられる場合も年によってはあるようですが、とても少ないんです。せっかく志しても、特に地方出身者でバックアップも望めない環境だと、仕事として続けられなくて趣味になってしまう人も多いんです。だからスタートダッシュだけでも支えられる環境を整えたいなって」
川口「なるほど。ご自身が家業を継いで見えた伝統工芸全体の問題点に、今の時代にフィットしたやり方で立ち向かわれていると思います。オープンが今から楽しみですね」
大西「どうなるかわかりませんが、私もワクワクしています!」

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