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  3. 2018年7月号【対談】植治(小川治兵衞)次期12代・御庭植治株式会社代表取締役 小川勝章×当社代表取締役 川口聡太(1/3)

2018年7月号

きょうの架け橋~今と未来を生きる京文化~

対談:植治(小川治兵衞)次期12代・御庭植治株式会社代表取締役 小川勝章 × 当社代表取締役 川口聡太(1/3)

このコーナーでは、京都の伝統文化を担う方々へのインタビュー特集をお届けいたします。文化と人々を繋ぎ、後世へ残していくために何を考え、感じ、活動されているのかをお伝えしていきます。

今回は江戸時代に創業し、平安神宮神苑や円山公園など、数多くの京の名庭を代々手がけてきた「植治」次期十二代 小川治兵衞である小川勝章氏と、当社代表 川口聡太の対談をお送りいたします。

小川勝章
植治(小川治兵衞)次期12代・御庭植治株式会社代表取締役
1973年生まれ。高校時代より父・11代小川治兵衞に師事。大学卒業後「植治」に入社し、歴代が手がけた庭園の修景・維持、新たな作庭を手掛ける。庭園に込められた物語の普及のため精力的に活動し、2018年京都・滋賀の庭園解説本『技と美の庭』(京都新聞出版センター)上梓。

雪の多い厳しい冬が終わり、晴れやかな春の兆しを含んだ青空が広がる3月のはじめ。かつて岩倉具視が身を隠すように暮らした京都・岩倉の奥地にひっそりと建つ、実相院門跡の枯山水「こころの庭」を前に二人は話し始めた。

市民の手でできあがった
実相院「こころの庭」

川口「遠くに比叡山を望み、気持ちの良いお庭です。」
小川氏(以下、小川)「枯山水のお庭というのは、『見立て』が大切なんです。」
川口「砂利で川を表現したり…」
小川「そうです。川や海もですし、雲も砂利や白砂で見立てます。土を盛り山を作り、苔で大地を造る。地球の営みを表現しているんです。ただ岩や砂で作っていることが枯山水の定義ではないんですよ」
川口「地球の営み、ですか。スケールが大きいですね!ですが今ここにある自然そのままも良い眺めだと思うのですが、なぜ先人はわざわざ別の世界を造り出してきたのでしょうか」
小川「庭は権力の象徴という側面もあります。だから時の権力者の多くは庭を造ろうとしてきました。ですがそれ以上に、今のように気軽に旅へ出られなかったからだと思います」
川口「遠方の景色を庭に、ですか!」
小川「庭は自然への憧れの象徴としての顔も持っています。あるところに美しい景色があると聞いてもなかなか見に行くことはできない。だから自分の近くに海や川、山を造り、旅気分を楽しんでいた。庭を読み解くと、そういった物語がたくさん見えてくるんです」
川口「確かに。では、今目の前に広がる岩倉実相院の『こころの庭』はどのような風景なのでしょうか?」
小川「それは見る方が決めて下されば良い、と私は思っています。たとえばあの土を盛った部分を山の稜線と見ても良いし、波だと感じていただいても」
川口「なるほど。眺める時の心理によっても何に見えるかは変わるかもしれませんね」
小川「……実は、このお庭を造ったのは東日本大震災の後で、海や波を思い起こさせるかもしれないものを造っていいのか、悩んだんです」
川口「そうでしたか…」
小川「ここ京都は、あの震災で物理的な被害は受けていません。ですがここへ訪れる人によっては、直視できない庭になることもあり得ます。考え抜いた結果、それなら大地を通じてエネルギーを送れる庭にしたいと思ったこともあり、市民の皆さんの手を借りて『こころの庭』を造りました」
川口「そこまでの想いがあったんですね」
小川「この場所を日本列島に見立て、東北のあたりから作庭を始めました。市民のみなさんも、手に土がつくことすら楽しみながら参加してくださって。そうして市民の皆さんが手を動かしながら東北に馳せた思いが庭から大地を伝い、今も辛い思いをされている方や、頑張っている方に届いてほしいと願っています」

目指すは「記憶に残る庭」

小川「『こころの庭』を市民参加型プロジェクトにしたのは、もう一つ理由があるんです」
川口「どんな理由ですか?」
小川「『植治』を継承する者として、記憶に残る庭を造っていきたいという想いがあります。けれど今、日本庭園を造ろうというところは少なくなっている。この時代の中で自分はどんな新しい庭を造れるのだろうと考えた時に、自ら参加し、記憶してもらえる庭を思いついたんです」
川口「ああ、愛着も湧きますね!」
小川「そうなんです。それに今回参加した方が何年かのちに、『自分が造った庭を見に行ってみよう』と足を運んだとき、作庭当時の楽しかった、面白かったという気持ちを思い出してもらえるでしょう?お家の庭の役目はそこにあると私は思うんです。何かつらいこと、しんどいことがあった時に自分がいつも手入れしている庭を眺めるとほっとしたり、嬉しくなったり…人の拠り所になれるものであってほしい」
川口「生きていく上での支えにもなれるということですか」
小川「はい。たとえば以前、お父様を亡くされた方から『お父さんみたいな木を植えて下さい』と頼まれたことがあったんです。一度はお断りしたんですが…」
川口「えっ、なぜですか?」
小川「木の命は永遠ではありません。枯れてしまうこともあります。すると、お父様を亡くす喪失感を二度も味わうことになりかねないと思って躊躇したんです。もう一度ご家族の皆さんで話し合ってほしいと」
川口「確かに…」
小川「ですが、それでも植えてほしいと言ってくださったんです。だから一緒に植樹して、庭石もお家の方に並べていただきました」
川口「お家の方は喜ばれたでしょう」
小川「ええ、思い出になるお庭を造るお手伝いができたと思います。逆に昔、思い出を壊してしまったこともあるんですけどね…」
川口「えっ?!」
小川「まだ学生で庭掃除くらいしかしていなかった頃なんですが、雑草だと思って抜いた草が、奥様との思い出のものだったんです」
川口「それは…」
小川「抜いた草はもう戻らない、つまり奥様との思い出そのものが消えたような気持になられたことでしょう。実際、大変落胆されていて本当に申し訳なかったです。庭づくりの難しさ、奥深さを身をもって知りました。そして庭づくりが、人の喜びのためにする仕事であるということを実感するきっかけにもなりました。寺院に造る広いお庭、個人のお宅に造る庭、大小は関係なくそこに込められた目に見えない気持ちや記憶が心を整えてくれるのだと、今まで私が関わってきたお庭が教えてくれたんです」

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