COTOPICS コトピックス
vol.132018年7月号
対談:植治(小川治兵衞)次期12代・御庭植治株式会社代表取締役 小川勝章 × 当社代表取締役 川口聡太(3/3)
インターネットが秘める「庭の物語」の伝播
川口「最近はSNSなどで美しいお庭が一気に拡散されることも多いですが、インターネットとお庭の関係性はどのように感じておられますか?」
小川「お庭の存在を知り、多点的に捉えていただくのによいツールだと思っています。欲を言えば、写真で切り取った一部分だけでなく、別の景色やお庭全体に込められた物語が分かる写真がどんどん広まってくれると嬉しいですね。お庭の魂から離れたところだけ見るのはもったいないです」
川口「と、言いますと?」
小川「例えば、梅や桜が咲くのは庭にとってはご褒美なんです。究極的には冬の庭が基本となる姿。庭師は花のない時期も含めた365日を考えて庭づくりをします。だから満開の花が、庭の物語や本来の魅力の全てではありません。もし偏った魅力の伝わり方をしていたらもったいないなと思います」
川口「ご褒美ですか、なるほど。確かに華やかなものに目を奪われがちですが、お庭は季節が巡る中ずっとそこにあるんですものね」
小川「はい、1年、数年と庭を見続けていると本当に素晴らしい眺めを見せてくれることがあります。待たないと得られないんです。でもお庭を鑑賞しに来てくださる方には難しいことですし、すべての意図を把握してほしいとか、この庭はこう見るべきとか押し付けるつもりはありません。自由に解釈していただくためにも、まずはお庭の物語を真正面から受け止めてもらえると嬉しいです。その方が、きっとお庭を見るのが楽しくなりますから」
庭と、手入れにいそしむスタッフに注がれる視線はとても強く、優しい。庭とともに生きてきた人々の営みを慈しむように、きっとこれからも多くの物語が彼の手で紡がれていく。
取材・文 鈴木 茉耶
撮影 マツダ ナオキ