COTOPICS コトピックス
vol.152020年7月号
対談:書家 川尾朋子×当社代表取締役 川口聡太(3/3)
書く様子を見学させていただきました
川尾「ところで、川口さんは今年の目標を漢字一字で表すと何ですか?」
川口「「漢字一字ですか?…そうですね…
私の目標というか、会社としての目標なのですが、今年は『一人ひとりの個性を伸ばそう』という話を年頭にしたんです。昨年新しく仲間に加わったメンバーも多くて、彼らには早く個性を出して仕事ができるようになってほしいし、既存メンバーには指名が来るくらいオリジナリティを出して頑張ってほしいと思っているんです。ですから、漢字一文字でいうと『個』でしょうか」
川尾「なるほど。…では、書きましょうか、『個』」
川口「…え?!書いて下さるんですか?!」
川尾「ええ、書きますよ~。ちょっと待っててくださいね」
川口「ありがとうございます。…図々しいお願いですが、さしつかえなければ書かれているところを見学してもいいですか?」
川尾「もちろんどうぞ。ごめんなさい、ちょっとアトリエ寒いですけど(笑)」
案内されたアトリエは、大作を書くときに使うということもあり、小柄な川尾氏の背丈をゆうに超える作品がくるくると丸めて壁に立てかけられていた。
これがいいかな、と出してきたダイニングテーブルほどの大きさの紙を前に正座し、真っ白な空間をじっと見つめはじめる。普段は書く前に入念にデッサンをするのだと先ほど聞かせてくれた。何パターンも鉛筆を走らせ、構図を決めるのだという。
今彼女の目の前には、私たちには見えないデッサンが引かれているのだろう。アトリエの無機物までもが全て、息をひそめた。
深々と礼をしたのち立ち上がると、大きめの筆を墨に浸し、軸に両手を添えて俯く。書く前に瞑想するのが彼女のルーティン。文字に想いがのるように、願いを込めるのだという。アトリエの空気がさらに引き締まる。
と、ざあっと音を立てて墨が筆先から滴り落ちる。力強く、大きく、一画目が黒々と白の上に現れる。大胆に筆を操る彼女の全身からパワーがほとばしり、と思えばしなやかに美しく、私たちを圧倒していく。
川尾「紙と筆が擦れる感触が私は大好き。どれだけイメージしていても、書き始めたら 100% コントロールはできません。白と黒しかない、一度書いたら変えられない緊張感の中、即興で次の画を決めていかなきゃならない。でも短い集中で、誰でもこの感覚を味わえる。それこそ私も病院でできたくらいですから。今を切り取ることに向き合える、それが書道の醍醐味だと思います。私が感じているこの面白さをどう作品にしていくのか、これからも追っていきたい。それに、私は作品を創っているときが一番自分らしいと感じられるんです」
はい、できました!ニッコリ笑う彼女が書いた「個」。
力強さ、芯の強さ、創造性…きっと人それぞれにイメージするものがあるだろう。そしてそれが、あなたの「個性」なのだろう。
すてきな贈り物をいただいた。
取材・文 鈴木 茉耶
撮影 松村 シナ