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COTOPICS コトピックス

vol.92015年3月号

きょうの架け橋

2015年3月号【対談】株式会社永楽屋 十四世 細辻伊兵衛×当社代表取締役 川口聡太(3/3)

無関心から文化を守る『伊兵衛』

株式会社永楽屋 十四世 細辻伊兵衛×当社代表取締役 川口聡太

細辻「川口さん、文化芸術にとって、一番怖いのはなんだと思います?」
川口「怖いこと?」
細辻「文化が消え去るときって、例えば戦争、火事、地震なんかがきっかけだったりするでしょう。でも、もっと怖い消滅の仕方が、人間がやることであるんです」
川口「何でしょう…忘れられる、でしょうか」
細辻「もっと怖いのは、無関心。どんなに素晴らしいものが目の前にあっても、関心がない人であれば、価値がわからないから捨ててしまうんです。僕も今では残しておけばよかったなと思うものを売ってしまった。日本文化を知らない日本人が多くなってきているのも、同じことですよね。京都の人でも、金閣寺って意外と行かなかったりするし(笑)」
川口「確かにそうですね(笑)そうやって、無関心にさせないためにも攻め続けるということでしょうか」
細辻「そう。無関心は、怖いですから。あとは、分かりやすく興味を引くためにインターネットツールを使ったりとかですね。ITは商売のやり方とか流通をがらっと変えてしまって、恐ろしいものだなとも思うんです。でも、やはり時代の変化に対応するために、例えばFacebook(※4)なんか使っていったほうがいいと僕は思っているんですよ」
川口「Facebookやブログ(※5)で積極的に情報発信をされているのもその一つですか」

左:永楽屋 蛇柳(市川海老蔵コラボ商品) 右:RAAK こたつパンダ

左:永楽屋 蛇柳(市川海老蔵コラボ商品)
右:RAAK こたつパンダ

細辻「ええ、更新したら見ていただけますから。僕は企業よりも、個人が有名になったほうが絶対に強いと思っているんです。『あのおもろい奴がやってる会社』という方が絶対印象に残る」
川口「なるほど…本当に戦略家ですよね。自分自身をプロデュースして、ブランド化されていて」
細辻「本当は視力もいいんですけどね(笑)」
川口「ええっ!伊達眼鏡でしたか(笑)」
細辻「最近特に思うんですけど、説明しないとわからない商品は商品じゃないと思うんです。一瞬見ただけで引き込まれるような商品ってすごくない?」
川口「ええ、一瞬の感動があって、いい!って言える商品って素晴らしいですよね」
細辻「好みの多様化が進んでいるので、全員に好かれるってことは難しい。でも、どっちつかずになるのが一番よくない。『細辻伊兵衛』も一緒です。人とお会いするなら、名刺プラスアルファのインパクトがないともったいない」
川口「伊兵衛さんとお会いしたら絶対忘れないですもんね。私、初めてお見かけした時のことをはっきり覚えています」
細辻「いえいえ、忘れられることだってそりゃあるでしょうけど(笑)でもこうして自分を出して関心を持っていただけるならそのほうがいいですから。僕は、一番大事なのはファンづくりだと思っているんです。ファンは怖いですよ。行動原理がお金じゃありませんから。だけど、手ぬぐい好きを増やして、京都好きを増やして、最終的に日本のファンが増えていったらこれほどいいことはないじゃないですか」
川口「なるほど。枠にとらわれず、いろいろと斬新な取り組みをされているのもそのためなのですね」
細辻「もちろんそれもあります。けど、やっぱり立ち止まったら会社が潰れるという危機感が大きいですね。人間と同じです。心臓が止まったら死んでしまう。ですが、400年の間何度も危機を乗り越えてうちが存続してきたのは、変化に素早く対応してこれたからやと思っています。いくら真面目に経営していても、時代に取り残されたら終わってしまうんですよ」
株式会社永楽屋 十四世 細辻伊兵衛 川口「過去の歴史を見ても伊兵衛さんの経営を見ていても、変化のキャッチアップに本当に長けていらっしゃるなと思います。きっと400年を越えて次世代にも、ずっと変化し続けていかれるのでしょうね」
細辻「ええ、しないとダメでしょうね。いつ何が起こるかなんてわからないから気にしすぎても仕方がないですけど、ただただ現状に向き合っていくのみです」
川口「素晴らしい考えだと思います。経営者としても、いち京都人としても学びの多い時間でした」
細辻「とんでもない。言うのは簡単なんで(笑)口だけにならんように頑張らな!」
川口「いえ、本当に貴重なお話が聞けました。ありがとうございました」

時代の波と競うように、ただ前へ、前へ。400年の歴史をあたりまえのように背負って突き進む。永楽屋を支え続けた歴代の伊兵衛たちはきっと、その姿を満足気に見守っていることだろう。

取材・文 鈴木 茉耶
撮影 AKARI

(※4)Facebook…Facebook

(※5)ブログ…「伊兵衛日記」

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