COTOPICS コトピックス
vol.82014年12月号
2014年12月号【対談】能楽 幸流 小鼓方 曽和尚靖×当社代表取締役 川口聡太(3/3)
デジタル×アナログ 対となり想いを伝える
川口「Webサイトのお名前も、鼓堂の名前を付けられているんですよね」
曽和「初めてデジタルな世界に踏み出すわけですから、初代の想いが伝わり、軽やかに和を発信できる言葉にしようと思たんです。そこに可愛らしい意味と、鼓の音を重ねて『プチ・鼓童』」
川口「ブログ(※4)もいつも楽しみに拝見しています」
曽和「書き始めると止まらなくて、毎日更新せずにはいられなかったことも。僕の想いの発露ですので、マニア必見やと思います(笑)」
川口「書くだけでなく、お話もお上手ですし」
曽和「僕はそもそも囃し立てるのが仕事ですから。でもデジタルツールばかりでなくて、やはり能楽師としてライブ感を大切にしたい僕はアナログ側の人間ですよね。パソコンも一切触れませんし」
川口「…ええっ?!使いこなされているものだと!」
曽和「実は、メールもブログも携帯電話だけで済ませているんですよ。僕みたいなアナログコミュニケーションに偏ってる人間は、どんどん使いこなせた方がいいとは思うんですけど、どうにもスマホもダメでした(笑)だからこそ、お客さんの目線でホームページを見ていられるとも思っているんです。季節に合わせてイラストを変えたり、お能のかしこまった写真は避けてとっつきやすくしたり。例えば、自分の鼓の音がどうお客さんに届いているかって、自分で聞けないでしょ?だから、ご覧頂いているお客様の思考、感情をさらに客観的に見る目線を身につけるんです。能の世界ではこれを『離見の見』と言います」
川口「私どものお仕事でも、客体になって物事を見るようにしますが、さらに上の次元のお話ですね…そもそもなぜ、ホームページを作ろうと思い立たれたのですか?」
曽和「僕でいいと言ってくださるなら、一人でも多くの方と触れ合いたくて、全国12ヶ所のお稽古場を回っています。でもこの体は一つしかありませんから、数に限界があります。よりたくさんの人に想いを伝えるには、ホームページもこれからせなあかんと思いまして」
川口「こちらのサイト、外国の方も興味を持たれそうですよね」
曽和「ええ、メッセージを下さるのは外国の方が多いと聞いています。出先で出会った外国の方にも、その場でホームページ見てもらって、明日ここでプレイするから来て!って誘えて便利。でも、日本人がもっと和モノを知れば、いい国際人になれると思っているんです」
川口「それはまたどうして…」
曽和「和楽器を持ったこともないのに、日本の楽器について教えてくれって言われても話せないでしょ?鼓は桜の木と、麻の紐と、馬の革でできている。いい音を出すにはちょっとした湿気が必要で…とか、学校の音楽の授業では習いませんからね」
川口「確かに…私も先ほど構えさせてもらったのが初めてでした」
曽和「だから和とつくものどんどんやって頂いて、それをグローバルにも、身近な人にも発信してもらえたらええなって。インターネットからでも何でも、僕にたどり着いた人は、鼓の奥深い世界を見せてあげたいんです。だから、デジタルもアナログも、結局どちらのコミュニケーションも大切なんですよね。僕はデジタルのプロになれないし、そこはお能に習って分業制でええと思ってます。でも異業種のプロを巻き込んでいける架け橋でありたい。そしてプロというのは、その分野を研ぎ澄ませ、極めていかなくてはと思っています。これが僕が芸道をやっている、一つの終着点でもあります」
川口「Webのプロとして、身の引き締まる思いです。ありがとうございます」
ポーン。軽やかな手の動きから奏でられた音色に、体の中央を貫かれるような感覚を味わう。ひょうきんな笑顔と語り口の奥には、怖いくらいに純粋な小鼓道への信念があった。
取材・文 鈴木 茉耶
撮影 AKARI
(※4)ブログ…「鼓事記」 曽和尚靖ブログ