COTOPICS コトピックス
vol.52014年3月号
対談:漆工芸家 三木啓樂 × 当社代表取締役 川口聡太(1/3)
- 三木 啓樂(けいご)
- 1971年、京都市生まれ。三代三木表悦の長男。漆工芸家。京都市立芸術大学工芸科漆工専攻卒業後、京都市伝統産業技術者研修、香川県漆芸研究所修了。第27回京都府文化賞奨励賞受賞をはじめ、数多くの賞を受賞。作品作りのほか、「KEIRAKU工房」を主宰し、漆芸体験教室や講演などで京漆器の普及に努めている。
このコーナーでは、京都の伝統文化を担う方々へのインタビュー特集をお届けいたします。文化と人々を繋ぐため、後世へ残していくために何を考え、感じ、活動されているのかをお伝えしていきます。
今回ご登場いただくのは、京都の漆工芸家・三木啓樂氏と、当社代表・川口聡太の対談をお送りいたします。
新年のにぎわいもひと段落した一月下旬。京都・堀川通に面したKEIRAKU工房で、三木氏と川口の対談が始まった。
「予告編」の可能性を秘めたインターネット
川口「これ、お恥ずかしいんですが、以前三木さんの漆芸教室で作らせていただいたのがこれなんですけれども(※1)」
三木氏(以下、三木)「懐かしいですねー!」
川口「漆って、少しずつリフォームして使い続けられるものなんですか?」
三木「もちろんできます。教室で教えているのはほとんど手直しの方法です。もともと漆は、木のお椀に防水性を持たせて使いやすくするためのものだから、ダメになる前に手を入れてやることでとても長持ちします。そうそう、だから漆のお椀って、石偏の『碗』じゃなくて木偏の『椀』って書くんですよ」
川口「あ、なるほど!」
三木「最近では漆って言うと何に使ってるものでしたっけ?っていう人も増えてきました。知らなくてもいいんですよ、こういう事を話すのも本来僕らの仕事ですから。今までは問屋さんが使う人と職人さんの間に入ってくれたので、売り手と作り手の健全な分業化が進み、職人はものづくりに集中してきました。その一方で、作り手自身が発信を怠ってしまったことも、今の産地減少なんかに繋がってしまっていると思っているんです」
川口「耳が痛いお話ですねぇ…我々Web業界も、分業化が顕著な業界なんです。今うちの会社も『コトを創る』方へ舵を切って、全員が外の世界と関わりを持つようにしようと動いているところです」
三木「なるほど。個人的な意見ですが、ものの作り手と使い手が、使い方を話すことってとても大切だと思います。今後漆塗を若い世代にも知ってもらうには、そうやって職人の価値観を伝えていかないと」
「うるみ塗手付盛器」2005年
川口「その点で、インターネットを使ってやりたいことはありますか?」
三木「作り手から発信するにはすごく手軽なツールだと思うんですよ。ただ、発信したい情報が一人分の知識や経験では足りない。いつか、いろんな人と一緒になって情報発信するようなことをしたいですね。
ただ、最近インターネットで何でも買えてしまうでしょ。けれど直接会って話して、表情や雰囲気の変化で伝わるものってあると思うんですよ。だから、インターネットは予告編であるべきだと思っています。全部見せますじゃなくて、画面では生殺しにして『本物を見たい、やりたい』と思わせる予告編。インターネットはこれには最適なんじゃないですか?」
川口「そうですね、その時はぜひご一緒させてください」
(※1)表紙写真で川口が手にしているお盆。