COTOPICS コトピックス
vol.102016年10月号
対談:株式会社三才 斉藤上太郎 × 当社代表取締役 川口聡太(2/3)
着物ブランドで初の東京コレクション
リアリティの追求
川口「今は着物ブランドとして東京コレクションに出展されていますよね。」
斉藤「着物って衣桁(※)で陳列して見せるんですけど、衣桁では伝えきれなくて。たとえばドルチェ&ガッバーナのワンピースだと、ハンガーに掛けている時はくちゃくちゃに見えても、着てみたらエレガントでセクシーですよね。着物はその逆で、衣桁で豪華に見えても実際に袖を通すと田舎のねえさんみたいになることもあるんです。僕が着物でやりたかったのはスタイルの発信だったので、着たときに素敵に見えるような“リアリティ”を突き詰めていくと必然的にショーにたどり着きました。最高のプレゼンテーションはコレクションショーだと思ってます。それは洋服を作っていた時と同じ感覚ですね。」
川口「ショーに参加すること自体は難しくないんですか?」
斉藤「審査がありますが、僕は洋服のブランドのときにも出ていたので、ショーのやり方や当時の関係者なんかもよく知っていて割とスムーズだったかも。未だにそうですけど、参加しても、雑誌の東京コレクション特集にはうちのページだけないんですよ。日本のジャーナリストは海外のファッションのことは書けても、日本の着物のことを書ける人があまりいないから。ときどき着物の記事はありますが、それもコンサバを賞賛する論調で。あと、洋服のデザイナーが着物をデザインすることがあるんですが、それも不思議なくらい古典なんですよ。」
川口「着物とか京都、古典にはこうあってほしいといったことなんでしょうか。」
斉藤「僕らみたいにどっぷり京都にいる者は、先代がいままでやってきた図案をわざわざ掘り起こしたりしてはダメでしょってところがあるんですけどね。着物ってそうじゃないのになっていうことは昔からずっとあります。」
川口「新しい取り組みをされることで、これまで着物に興味がなかった層への広がりも感じますか?」
斉藤「『着物は好きですか?』っていうアンケートを取ると、9割くらいの人が好きって答えるんですよ。もう何十年も前から。それでも着ない理由は、高いから、着る機会がないから、着れないからなんですね。でもそれは作る側、売る側にすれば言い訳ですよね。女性はきれいになるためなら5万円のパンストも買うし、高いメイク用品や基礎化粧にもお金を出すわけだから。着物を買わないということは、ステキに見えるものがないっていうことなんでしょう。そこを払拭できればとは思いますね。」
世界に再び注目される日本の文化
着物業界にとっても大きなチャンス
川口「着物業界で新しい流れは感じますか?」
斉藤「ここ10年くらい海外からたくさん人が来て、日本から海外に出て行って、改めてみんなが日本の文化の良さに気づき始めていますよね。日本食とか建築とか。着物もそうですけど、季節とか文化とリンクしていて、常夏のハワイにはない情緒がある。東京オリンピックも決まって、世界の最先端のものが集まってきていますし、今はやっぱり新しいことをするチャンスなんですよ。もちろん、全て新しければいいわけではなく、様式美として残しておくところと、新たに取り入れるところを非常に高いレベルでジャッジしないとチープになってしまうので、そこは僕らの腕のみせどころだと思います。
今はゲームやアニメが日本の文化として世界の若者に認知されて人気がありますが、そういう新しいものと、伝統工芸や伝統芸能の両方が共に存在している稀な国だと思います。琳派にアニメとかそんな単純なものではないジャポニズムを発信できたらいいですよね。昔百数十年前にパリ万博で浮世絵がゴッホや海外の画家に影響を与えたような、そういう機運さえ今感じています。日本の文化や考え方が世界の中でも突出しているようなイメージがあって、そんなタイミングでの東京オリンピックですから、日本のホスピタリティとか文化やアートが見直されて、リロードされるような時期にきているような気がしています。」
川口「デビューした27歳の頃より可能性を感じる、と。」
斉藤「そうですね。いいチャンスだと思っています。今度、銀座にコンセプトショップを出すのですが、森ビルやJ.フロント、LVMHなどが共同開発でアジア一を目指すという場所なんです。うちみたいな小さな会社にそんなところからオファーが来るなんて今までだったらあり得ないじゃないですか。やらなくても困らないかもしれないけど、なにもせずに業界とともに先細っていくのか、チャンスに乗るかと考えたら、選択肢は1つでしたね。」
川口「そうやってオファーがきたのは、タイミングはもちろんですが、これまでの取り組みがあってこそですよね。」
斉藤「東京のど真ん中で普通のものを売っても仕方ないというところにきてると思うんですよ。企業規模とかあまり関係なくて、何を発信して何を売っているかなんですよね。そういう意味ではチャンスが来たっていうことしかないですよね。」
絹磨×JOTARO SAITO 六本木ヒルズ店
(※)衣桁…室内で着物などを掛けておく道具。着物全体の柄が見えるように掛けられる。