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COTOPICS コトピックス

vol.112017年4月号

きょうの架け橋

対談:箔画家 野口琢郎× 当社代表取締役 川口聡太(1/3)

箔画家 野口琢郎× 当社代表取締役 川口聡太

このコーナーでは、京都の伝統文化を担う方々へのインタビュー特集をお届けいたします。文化と人々を繋ぐため、後世へ残していくために何を考え、感じ、活動されているのかをお伝えしていきます。

今回ご登場いただくのは、伝統的な引箔技術を用いた「箔画」で、印象的な世界を表現する箔画家 野口琢郎氏と、当社代表 川口聡太の対談をお送りいたします。

野口琢郎
箔画家
1975年、京都・西陣生まれ。高校・大学で油絵を学び、西陣織の織元に勤務。のちに写真家・東松照明氏のアシスタントをつとめ、家業を継ぐ。
西陣織の伝統技術を用いた「箔画」にてアミューズ・アーティスト・オーディションin京都のグランプリを受賞。これを機に箔画アーティストとして歩み始める。
近作には2016年にリニューアルオープンした文化ホール、ロームシアター京都(旧京都会館)を飾る「Landscape#35 −洛中洛外図−」がある。

京のまちなかを銀世界に染め上げた一月の雪の日から数日後。古くから流麗な京帯の産地として知られる西陣の一角「箔屋野口」で野口氏と川口の対談は行われた。

箔屋の仕事‐箔画家の原点

帯の中に織り込まれる『引箔』

川口「とても素人くさい質問ですが、『箔屋』というのは西陣織の中で、どんなことを請け負う工程なのですか?」
野口氏(以下、野口)「和紙に漆を塗り広げ、金・銀・プラチナ箔などを貼り、横糸とあわせて使う『引箔』を作る工程です。この段階で地紋になる柄を作っておくこともあります。いっときは全面うちの箔を使った瀞金帯(※1)というのも売り出していただいていたんですよ」
川口「えっ、帯に和紙が使われているんですか?」
野口「そうなんです。強い折り皺ができる帯があるでしょう?あれは和紙が織り込まれている帯だからなんですよ」
川口「なるほど…」
野口「西陣では一つのきものや帯を仕上げるにも、細かく工程を分けた分業制を敷いています。うちは箔を貼るのが仕事で、裁断するのは切屋さんのお仕事。箔を貼った和紙の両端を残し、1mm以下の細さにカットします。これを上下の順番を間違えないように、一本一本横糸と交互に織り上げるんですよ。間に横糸が入るので、仕上がりは裁断前の1.6倍くらいになります。地紋を描く時はそれも計算して、少しひしゃげた模様で作っています」
川口「そうでしたか。伸び具合を計算するのも経験が必要ですし、織り手の方も糸の順番を間違えずに織るのは至難の業ですね」
野口「ええ、ですからひとつ織り上げるのに何ヶ月もかかることもありますよ」

※1 瀞金帯…全面を引箔で織った帯。

箔屋野口にて

伝統に新たな命を宿したモダンアート

川口「今も制作のかたわら、引箔のお仕事はされているのですか?」
野口「今はもう、西陣のお仕事はお受けしていないんです。引箔というのはとてもデリケートな製品で、和紙と漆、漆と箔の間に小さなホコリ一片が落ちるだけでも、形が浮き上がってしまうのでダメなんです。ですから作業場はクリーンな環境でないといけないのですが…今はもうアトリエとして雑多な部屋になっているので、申し訳ないのですがお断りしています」
川口「でも、はじめは家業を継ぐつもりだったのですよね?」
野口「はい。昔から家業を継ぐつもりでしたし、卒業して織屋さんに勤めさせていただいたのは、西陣織の一連の生産工程を学ぶ意味もありました。ここに戻ってきてからは父について引箔の修行もしていたのですが、西陣をとりまく状況は厳しくなる一方。箔屋に限って言うと、機械化で手作りの引箔はどんどん需要が減っていきました」
川口「洋装化が進んだ時代ですからね…しかし、職人の技が詰まった引箔がそうそう大量生産品に適うとは思えませんが」
野口「金箔の真空蒸着技術(※2)が出はじめた60年ほど前はそうでした。でも蒸着メーカーさんも技術改良を重ねて、どんどん品質が上がっていったんです。見た目の品質がほとんど変わらなければ、コストの安い材料は魅力的に映りますよね。だからこのままではいけない、新しいことを始めなければと」
川口「なるほど。アート以外には何か候補はあったのでしょうか」
野口「いえ、絵しか思いつきませんでした。もともと、引箔の技術って面白いと思っていたんです。この技を絵に応用したら、新しい表現ができるんじゃないかって。箔は光の反射で見え方が変わりますから、同じ部屋にあっても朝昼夕で絵の印象が違うんですよ。けれど、箔屋との二足のわらじではどちらも中途半端になってしまうのではないか…悩んだ末、『絵で勝負をかけたい』と父に頭を下げ、作家に専念することにしました」
川口「とても勇気のいる決断だったと思います。ですが、形は変わっても西陣の技は残りますし、何より今、この美しい絵が生み出されていることに一ファンとして感謝します」

Landscape#35-洛中洛外図-
(撮影 谷口 巧)

※2真空蒸着技術…真空の中で、金属材料を加熱して蒸発させることで、基材の表面をコーティングする技術。

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